雨乞岳 寒波の直後に挑んだ最後の鈴鹿セブン
朝明渓谷からの冬季限定ルート
2024年に登山を再開する以前、10年ほど前に、私は一度、登山をしていた時期があった。その頃に登った鈴鹿セブンマウンテンを含めると、これまでに6つの山を登頂した。最後に残ったのは雨乞岳。
雨乞岳は、夏場でも道迷いが発生しやすく、なんとなく難しいイメージがあった。当初は、春になったら登ってみようかなくらいに考えていた。それが、いくつか鈴鹿の積雪期の山を経験するうちに、春を待たずになんとか登ってみたいという思いが強くなった。ある日、YAMAPで雨乞岳周辺の日記を見ていたら、武平峠の先からとは違う、朝明渓谷のあたりからアクセスできるルートがあることを知った。

このルートは積雪期限定のもので、東雨乞岳につながる七人山の急な尾根を直登するというものだった。先日、新雪が積もった御池岳の直登で、めちゃくちゃ苦労した経験から、事前にTrailnoteでルートを分析してみた。すると、七人山の直登は、御池岳の真の谷からテーブルランドの直登と同じくらいで、標高差は約300m、さらに、斜度は幾分ましにはなるものの、七人山を越えて、東雨乞岳への直登が標高差約200mと分かった。でも、このとき、なぜだか「ノートレースのラッセルになったら絶対辛いだろうな〜」という思いより、「人すくなそうだし、なんかちょっとラッセルやってみたいな」という怖いもの見たさのようなワクワク感のほうが大きくなった。
新雪のチャンスはすぐにやってきた
2025年が明けて、1月7日頃からやってきた寒波は日本中に大雪をもたらした。ついこの間、最高のコンディションの御池岳や霊仙山を経験してしまったものだから、新雪が歩きたくてうずうずしていたところにこの寒波。タイミングよく金曜日に寒気が抜ける予報だったので、土曜日を狙って雨乞岳を目指すことにした。
朝明キャンプ場の駐車場まで

さすがに、日本中に大雪をもたらした寒波の直後ということもあり、朝明渓谷キャンプ場へつながる山道は、麓から真っ白でガリガリになった雪が路面を覆っていた。スキー場へつながる舗装路も積雪が多い日に行くと似たような状況だけれど、まさか三重県でこんな光景を目にするとは思っていなくてびっくりした。車は4WDではない。雪道を走るのは久しぶりだったので、すこし戸惑ったけれど、アクセルワークに気をつけて、ゆっくりながらも決して止まらないように気をつけて、くねくねと連続するカーブの山道を駐車場まで一気に登りきった。丁度駐車場につくと、バケットを装備したダンプの除雪車が作業を始めたところだったようで、上手くその車の後ろにつかせて頂く形で、なんとか雪に埋もれた駐車場に停めることが出来た。ちなみに、冬季は無料で停められます。
駐車場から根の平峠へ

旧千種街道登山口までの舗装路も当然、雪に埋もれている。いくら新雪の日に来たいと思っていたからといって、まさかこんな状況とは驚いた。トレースを見る限り、先行者は2人。そのうち1人は自分の少し前に出発した方だ。

根の平峠までの道のりは緩やかな登りで、積雪はしているが、基本的には沢沿いを進んでいくルートで比較的わかりやすい。何度か渡渉ポイントもあるが、ピンクテープがここぞとばかりに大量に貼ってあるので、見落とす可能性は少ないと思う。このあたりは積雪しているものの、そこまで沈み込むことも少なく、チェーンスパイクで十分進めた。
根の平峠の直下、最後の区間は急登だ。谷の右側に沿って岩っぽいところを乗り越えながら急坂を登り切ると峠に出た。
根の平峠からコクイ谷へ

根の平峠で3方向に分岐しているが、まずは、そのまま真っすぐ上水晶谷出合方面を目指す。途中、美しいと評判の「鈴鹿の上高地」にルートが分岐しているところがあるが、そちらへ行くとかなり大回りになってしまうので、注意が必要だ。その分岐のあたりに差し掛かったところで、一層雪が深くなってきたので、スノーシューに履き替えた。そのまま先行者のトレースを頼りに進むが、途中狭い谷状になったところや、ほとんど踏み場の無いロープありのトラバースなど、スノーシューには不利な箇所を何度か通過した。暗いうちに出た先行者もノートレースに苦戦したのだろう、上水晶谷出合方面を越えたあたりで、YAMAPのルートと離れてしまうところもあったが、なんとか乗り越え、コクイ谷にたどり着いた。
コクイ谷での渡渉はわかりにくいポイント

コクイ谷から七人山への取り付きは少し分かりにくい。まず、根の平峠から歩いてくると、川が2又に別れるところがコクイ谷となる。到着地点の2又に分かれる手前で、川の左岸から右岸に渡渉する。次に、2又に別れた川うち、右奥に伸びる川を再び左岸に渡渉する。この2回目の渡渉先は、よく見るとロープが張ってあるが、ものすごく登りにくい急な斜面で、足場も良くないので、本当にここが渡渉先か不安になる。よく見ないと分からないので注意が必要だ。
ノートレースの七人山のラッセルに挑む

渡渉ポイントから登った先は杉峠の方向にトレースが伸びており、一瞬そちらに引っ張られた。その後、すぐに思い返し、「いや七人山への分岐はここだったはず」と辺りを見渡した。しかし、どこにも別ルートのトレースはない。YAMAPを見返すと、やはりここから尾根伝いに登っていくようだ。ある程度覚悟はしていたが、七人山への急登は、まだだれも踏んでいないようだった。早朝より天気も回復してきて日差しも出てきた。やるなら絶好のチャンス。ここまで来て引き返してもしょうがないし、まぁ何とかなるの精神で、孤独なソロでのラッセルを始めた!昨日までの寒波で、気温も低く、サラッサラのパウダースノーが深く積もっている。スキーやボードならめちゃくちゃ喜ばれる雪質だけれど、ラッセルとなると、固まらない砂の上(しかも急坂)を歩いているようなもので、一歩進むたびに、立ち止まって呼吸を整えたくなるほどきつい。

風もなく青空も見えてきた。だんだんと斜度がきつくなり、雪も深くなる。この斜度だとスノーシューも滑ると判断して、アイゼンに履き替えていたので、さらに重くなった足先が、雪に深く突き刺さる。さすがに直登はきつい斜度の場所もなんどかあり、斜めに斜度を殺しながら、ゆっくり、じわじわと登っていった。もう半分くらいきたかなと思ったら、まだ3分の1程度だった。

ソロのラッセルで一番もどかしいのは、このキツさを誰にも分かってもらえないことで、後にも証明しようがない。さらに、登ることに必死で、写真もほとんど撮っている余裕がなかったのが悔やまれる。あとで、分かったのだけれど、このルートで登ったのは、この日は自分一人だった。
美しい霧氷と七人山ブルー

もはや、自分との闘い、登りきりたい一心で、なんとか新雪をかき分けて歩を進めた。そして、時間はかかったが、ようやく七人山の看板のところまでたどり着いた。その頃にはほとんど晴れてきて、ふと空に目をやると、木々についた霧氷とブルーのコントラスト。今まで見た霧氷の中でもとびきり美しくて、疲れが少しだけ癒やされた。そこから東雨乞岳に向かって緩やかに下っていくが、ここも雪が深い。そして、東雨乞岳への登り返しが始まった。山行前は、七人山を越えればなんとかなるだろうと思っていたが、実際にはここから先もかなりの急登、直登ルートだった。

標高があがるにつれて、雪も一層深くなる。しかもふと気づくと、さっきまでの青空が急変して風が強くなり、一気にあたりがガスに包まれてしまった。ふと我にかえると、ソロでこんなに人が少ない山域に来てしまったことが不安になってきた。寒波の直後に雪山経験の少ない自分が、天候の悪化した鈴鹿の強ボスである雨乞岳を登り切ることが出来るのか、ここで諦めて引き返したほうが良いのではないかと思えてきた。不安を抱えたまま少し進んだことろで、斜度がゆるくなってきたので、アイゼンを外してスノーシューに履き替えることにした。
救世主現る!最初で最後の先行者との出会い

スノーシューに履き替えエネルギーを補給して仕切り直そうと、深い雪の上で足踏みして足場を整えていた。そうしたら、ガスの向こう、上の方から降りてくる人影がだんだんと近づいてくる!まさかの先行者との遭遇!「助かった!」そんな思いだった。咄嗟に、すれ違いざまに声を掛けた!そうしたら午前4時に出発した帰り道らしい。ベテランの登山者さんという雰囲気。「トレース、使わせてもらうよ!」と声を掛けて頂き、その人は勢いよく下っていった。なんだかとてもホッとして、勇気が出て、そして俄然やる気が出てきた。そして、ガスに包まれ、ホワイトアウトの様相を呈した東雨乞岳の山頂直下で、交換してもらったトレースを頼りに、再び歩き始めた。このトレースが無ければ、方向を見失っていたかもしれないと考えると、本当に彼は救世主だったと思う。
ついに雨乞岳登頂!そして鈴鹿セブンマウンテンも制覇!

ガスに包まれた東雨乞岳、山頂は強風でほとんど雪が積もっておらず、地面が露出していた。そこから少し下って、夏ならば笹に覆われた稜線を、風雪で早くも薄くなりかけたトレースを頼りに進む。笹に積もった雪の上は、スノーシューを履いていても、膝上くらいまで踏み抜いてしまうので、一歩一歩が思うように進まなかった。時間は正午をまわり、自分の計画ではギリギリのタイミングだった。少しずつ雨乞岳の山頂が近づいて、それに比例するように強烈な風が行く手を阻んだ。方向を見失わないことと、雪庇を踏まないことにだけ神経を集中して慎重に進んで、ついに、雨乞岳山頂にたどり着いた。強風と寒さ、ガスで眺望も一切ない。山頂写真だけ撮影し、せっかくたどり着いた山頂だけれど、一刻も早くここを離れるべきだと思い、すぐさまもと来た道を引き返した。3分だけの山頂だったが、今まで登った山の中で、一番印象深い山頂となった。そして同時に鈴鹿セブンマウンテン制覇を達成した。
これだから登山はやめられない!
まさか登山を始めた頃は、こんな形で鈴鹿セブンマウンテンを制覇出来るとは夢にも思わなかった。自分でいうのもあれだけれど、本当にドラマチックで、この上ない満足感のある鈴鹿セブン達成の瞬間だった。スノーシューをつけたまま、滑るように東雨乞岳を駆け下り、七人山のあたりに戻るころには、午前と変わらない青空が広がったいた。あの荒天は何だったのだろう。とにもかくにも、ここまで戻れば一安心だと安堵した。
登頂までは、かなり苦戦したが、なんとか予定時間内に駐車場まで帰ることができた。今回の山行は、他の登山者もほとんどおらず、どんなに大変な思いで登ったかなんて誰にも分かってもらえないけれど、あのラッセルを独りでやりきった達成感、美しい霧氷と七人山ブルー、そして厳しい条件の中でたどり着いた雨乞岳山頂を振り返ると、本当にこの日、雨乞岳を登って良かったなと思う。
これだから登山はやめられない!この先の山行も素晴らしいものになりますように!
雨乞岳
日時:2025年1月11日(土)
天気(体感):(前日まで寒波)曇のち晴れ、頂上付近のみガスと強風
ルート:朝明渓谷〜コクイ谷経由〜七人山直登ルート(冬季限定ルート)
コースタイム:8時間40分(休憩含む)
歩行距離:13.6km
獲得標高(上り):1203m